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2010年9月

借家権と立退料

「借家権」の評価というのは、不動産鑑定評価基準に載っている類型の中で、最も評価が難しいのではないでしょうか?

他の類型については、実際に市場で取引されているので、それらを観察しているとなんとなく相場が見えてきたりするものですが、借家権が市場で取引されることは非常に稀です。

借家権が、市場で取引されるケースを考えると、一等地の繁華街にある店舗で、「そこに店を出せば繁盛間違いなし」のような貸店舗の借主さんが、その店の借家権を譲る場合に生じることが考えられます。(いわゆる「市場価格のある借家権」)

しかし、その時に授受される代金がすべて「借家権」の対価かというと、そうも単純には行きません。

飲食店等を居抜き(厨房設備や造作をそのまま譲り受ける賃借人の異動)で譲り受ける場合に、「借家権」という名目で金員のやり取りが発生する場合があります。しかし、こちらはあくまで設備に対する対価や営業権の対価であって、純粋の意味で不動産の経済価値ではありませんから、不動産鑑定における「借家権」に相当しません。

また、大手の外食チェーン等は、目抜き通りに店を構えることが至上命題ですので、大金を積んで出店場所を譲ってもらうというようなことが、しばしば見受けられます。この時支払われる対価には、「借家権」が含まれていると考えられます。こうした交渉は出店時期等を巡ってかなり前のめりになって行われることが多く、金額が大きくなりがちで、継続的に再現可能かという点において、合理的な市場で形成される価格とは言えるかどうか、多少疑問が残ります。このような取引事例を採用する場合には、注意が必要と思われます。

このように考えると、いわゆる「市場価格のある借家権」というのは非常に狭い範囲に限られる(ごくわずかしか存在しないといっても過言ではない)と思われます。

ところが、不動産鑑定評価基準によると、「借家権といわれているものには、賃貸人から建物の明渡しを受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体的に現れるものがある。」と書かれています。いわゆる「立退料」と呼ばれるもので、これらが実際に市場で取引することはありませんが、賃貸人と賃借人の衡平を図り、補償の原理に基づいて発生する経済価値です。不動産鑑定評価の依頼があるのはほとんどがこのケースです。

以前、ビルオーナーの依頼で店舗の立退料についての調査報告書を納品した際、それをみた賃借人側の代理人弁護士が「この調査報告書には『借家権』が含まれていないのではないか?」と質問が来ました。

その調査報告書は、用対連基準(公共用地の取得に伴う損失補償基準)に基づいて「移転実費(引越代)」「営業補償(休業補償)」「賃料差額」等をを求めたのですが、「ここには『借家権』が含まれていない…」というのです。

この場合、議論を整理して考える必要があります。まず、「市場価格のある借家権」については、その時の対象不動産は、残念ながら今の店子さんにお金(借家権の対価)を払ってまで、そこのお店を借りたいと思わせるものではなかったので、市場で取引されるような経済価値は発生していないと判定しました。また、補償の原理に基づいて発生する経済価値については、賃料差額に織り込まれているという趣旨の説明をした意見書を作成して提出しました。(これについては、控除法の観点から求められる価格もあるので、注意が必要です。)

「市場価格のある借家権」と「立退料」を「借家権」という類型として一括りにしていますが、その性質は全く別のものですので「市場価格のある借家権」を「狭義の借家権」とし、「立退料」と明確に分けて定義するべきではないかと思います。両者の差異については、この他にもいくつか論点があるのですが、それはまた別の機会に書こうと思います。

【関連記事】

借家権や継続賃料を求める際の「上限」と「下限」

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不動産鑑定士 四方田 修

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底地の価格

借地権の付着した土地を「底地」と呼びます。

底地が単体で売りに出されることは滅多にありませんが、何らかの理由で底地の所有者が手放す必要が生じた場合、借地権者がこれを買い取るというケースがままあります。
こんな時、その売買価格は路線価や公示地価を基準に更地価格を求め、これから財産評価基準書(路線価)の借地権割合を乗じて求めた借地権価格差し引いた価格(ここでは「割合法」と呼びます)をもって、底地価格とすることが多いようです。

底地価格=更地価格-(更地価格×借地権割合)

個人間の戸建住宅の敷地等の場合はかなり高い確率でこの計算式で求めた価格で取引されています。

はたして、これは妥当な価格と言えるのでしょうか?

価値や大きさ等、価格に影響を与える要素(価格形成要因)がほとんど同じの二つの土地(土地Aと土地B)があるとします。更地価格を1億円、借地権割合は60%とします。

但し、両者は借地契約の条件に次のような違いがあると想定して下さい。

①A土地は地代が年額1百万円、B土地は地代が年額50万円。
②A土地は借地契約の期限が1年後に迫っており、借地人は契約を更新する意向で、特約により更地価格の5%の更新料を受け取れる予定である。B土地は借地契約の更新をしたばかりである。

割合法で計算した場合、どちらも更地価格1億円、借地権割合60%ですから、

更地価格1億円-(更地価格1億円×借地権割合60%)=底地価格4千万円

となります。

しかし、よく考えてください。みなさん同じ値段だったら、A土地を買いたいと思いませんか?

①は年間地代が倍も違います。

②では、1年後に更地価格の5%(5百万円)の一時金が「もらえる」と「もらえない」で大きな差が生まれます。

この二つの土地が同じ値段などと言うことは決してあり得ないのです。

不動産鑑定評価基準においては、底地の価格を次のように求めるとしています。

「底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定するものとする。 」

底地所有者は、自ら土地を使用収益出来ないことから、底地の経済価値は地代徴収権(その他一時金の徴収権)と借地期間の満了等によって更地に復帰する経済的利益ですから、それらの収益を現在価値に割り戻して求めた価格(収益価格)が最も合理的な価格と言えるでしょう。

この場合においては、さらに次に掲げる事項を総合的に勘案するものと定められています。

(ア)将来における賃料の改定の実現性とその程度
(イ)借地権の態様及び建物の残存耐用年数
(ウ)契約締結の経緯並びに経過した借地期間及び残存期間
(エ)契約に当たって授受された一時金の額及びこれに関する契約条件
(オ)将来見込まれる一時金の額及びこれに関する契約条件
(カ)借地権の取引慣行及び底地の取引利回り
(キ)当該借地権の存する土地に係る更地としての価格又は建付地としての価格

「比準価格を関連付けて決定する」とされていますが、上の(ア)~(キ)までを比較可能な底地の取引事例というのもなかなかありませんので、通常底地の比準価格は規範性が低くなる傾向にあります(そもそも手法の適用自体を省略する場合も見られます)。

いかがでしょう? 不動産鑑定評価基準の底地の評価手法には「借地権割合」という言葉は出て来ていません。

しかし、ご覧の通り底地の評価はなかなか複雑で、評価するのにも手間暇がかかります。そこで、「借地権割合」というわかりやすい基準を設けて、画一的に取り扱おうということなのでしょう。実際に借地権割合に基づく取引が頻繁に行われていることから、これはこれで一つの価格水準として尊重すべきですが、実際の経済価値は借地契約の条件等によって、大きく異なるということを理解する必要があります。

底地の評価には他にもいろいろと注意点がありますが、それはまたいずれ。

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不動産鑑定士 四方田 修

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【地代】『山小屋はいらないのか』

三俣山荘の伊藤正一氏の著作ですが、登山ガイドではなく、伊藤氏の経営する山小屋の地代訴訟について世に問う内容です。

三俣山荘は、北アルプスの奥地、黒部川の源流近くにある山小屋です。山小屋のある場所は国有林すので、国(林野庁)に対して地代を払う必要があります。国はその地代増額請求の際、それまでの「定額方式」から「収益方式(毎年の営業報告書の提出を義務付け、総売上(経費を控除しない額)と設備投資費を報告させ、総売上の1%~3%を地代として徴集する。)」に地代算定方法を改める…とした通達に対して、山荘側が争った事件です。

結論から申し上げますと、1981年の通達から20年以上の歳月を得て、国の主張である「収益方式」による地代が認められ、山荘側が敗訴しました。(本著は裁判の途中で刊行されましたが、現在三俣山荘のホームページにその後の顛末が書かれています。)

現在では、都心部の店舗等を中心に収益方式による家賃の決め方は一般的になっていますが、当時としてはかなり画期的な決め方だったのでしょうね。

不動産鑑定評価基準には、「不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。」とあり、その不動産の生み出す収益こそが、不動産の価格や賃料を求める際の基準になることは、合理的と考えられます。

しかし、不動産の収益性を分析するに当たり、単に「収入」だけを重視するのは非常に危険で、「収入」と同時に「費用(必要諸経費)」をしっかり把握する必要があります。

費用の中には、水道光熱費のように月々の支払いとして見える形で把握されるものもあれば、大規模修繕費のように今は発生していないけど、いつか必ず必要になる費用も存在します。また、貨幣額として把握されないものの不動産事業を経営していくに当たり様々なリスクがあり、これらは主に還元利回りに反映されます。今すぐ払わなくてよいものと言うのはついつい見えなくなってしまいますね。

不動産の経済価値を把握する際にはこういった費用もしっかり見極める必要があります。

よく、収益不動産(ビルの一棟売りや投資用マンション)の宣伝で、「利回り●●%」なんていうのがありますが、たいてい『粗利回り』…即ち、収入に対しての利回りで費用は考慮していなかったりしますね。築年数が経過している古い物件ですと利回りがとても高かったりしますが、実際には修繕費がたくさんかかってしまったり、近い将来大規模修繕や建替えのためにたくさんお金がかかったりするものです。

さて、話を戻しますが、山小屋の「費用(必要諸経費)」って、どんなものが考えられるでしょう?

ぱっと思いつくところでは燃料代や食費、人件費等が考えられますが、深い山の中では建物の消耗も激しいので、大規模修繕の積立も普通の建物より多く必要でしょう。また、山小屋は登山者の安全な登山を守る義務を負っています。登山道や水場、トイレ等の整備や遭難者の救助活動等々、小屋の経営に直接関係しない部分も、それらが半ば義務であることが公然であることから山小屋の必要諸経費に加えて考えるべきでしょう。実際、山小屋に宿泊しない登山者も山小屋には有形無形の恩恵を受けているのであり、こうした部分を評価しないと山小屋が成り立たなくなってしまいます。こういった部分も、継続賃料の差額配分法における配分率決定においては「借主の近隣地域の発展に対する寄与度 」として考慮されるべきでしょうね。

私も、昨年8月に「黒部五郎岳」、9月に「雲ノ平」に行った際、三俣山荘で休憩させていただきました(降りしきる雨の中で温かいコーヒーが美味しかった)。

どの登山口からでもまる1日~2日かかる山奥では、水や食事、夏季には医療(岡山大学医学部の医師・看護師が滞在)まで提供してくれる山小屋のありがたさが身に染みました。

もし、山小屋の地代の案件が来たら、しっかり現地実査して説得力のある鑑定書書いてみたいものです。

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不動産鑑定士 四方田 修

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開業

この度、不動産鑑定業「あかつき鑑定」を開業いたしました。

何卒、ご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

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不動産鑑定士 四方田 修

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