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借家権と立退料

「借家権」の評価というのは、不動産鑑定評価基準に載っている類型の中で、最も評価が難しいのではないでしょうか?

他の類型については、実際に市場で取引されているので、それらを観察しているとなんとなく相場が見えてきたりするものですが、借家権が市場で取引されることは非常に稀です。

借家権が、市場で取引されるケースを考えると、一等地の繁華街にある店舗で、「そこに店を出せば繁盛間違いなし」のような貸店舗の借主さんが、その店の借家権を譲る場合に生じることが考えられます。(いわゆる「市場価格のある借家権」)

しかし、その時に授受される代金がすべて「借家権」の対価かというと、そうも単純には行きません。

飲食店等を居抜き(厨房設備や造作をそのまま譲り受ける賃借人の異動)で譲り受ける場合に、「借家権」という名目で金員のやり取りが発生する場合があります。しかし、こちらはあくまで設備に対する対価や営業権の対価であって、純粋の意味で不動産の経済価値ではありませんから、不動産鑑定における「借家権」に相当しません。

また、大手の外食チェーン等は、目抜き通りに店を構えることが至上命題ですので、大金を積んで出店場所を譲ってもらうというようなことが、しばしば見受けられます。この時支払われる対価には、「借家権」が含まれていると考えられます。こうした交渉は出店時期等を巡ってかなり前のめりになって行われることが多く、金額が大きくなりがちで、継続的に再現可能かという点において、合理的な市場で形成される価格とは言えるかどうか、多少疑問が残ります。このような取引事例を採用する場合には、注意が必要と思われます。

このように考えると、いわゆる「市場価格のある借家権」というのは非常に狭い範囲に限られる(ごくわずかしか存在しないといっても過言ではない)と思われます。

ところが、不動産鑑定評価基準によると、「借家権といわれているものには、賃貸人から建物の明渡しを受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体的に現れるものがある。」と書かれています。いわゆる「立退料」と呼ばれるもので、これらが実際に市場で取引することはありませんが、賃貸人と賃借人の衡平を図り、補償の原理に基づいて発生する経済価値です。不動産鑑定評価の依頼があるのはほとんどがこのケースです。

以前、ビルオーナーの依頼で店舗の立退料についての調査報告書を納品した際、それをみた賃借人側の代理人弁護士が「この調査報告書には『借家権』が含まれていないのではないか?」と質問が来ました。

その調査報告書は、用対連基準(公共用地の取得に伴う損失補償基準)に基づいて「移転実費(引越代)」「営業補償(休業補償)」「賃料差額」等をを求めたのですが、「ここには『借家権』が含まれていない…」というのです。

この場合、議論を整理して考える必要があります。まず、「市場価格のある借家権」については、その時の対象不動産は、残念ながら今の店子さんにお金(借家権の対価)を払ってまで、そこのお店を借りたいと思わせるものではなかったので、市場で取引されるような経済価値は発生していないと判定しました。また、補償の原理に基づいて発生する経済価値については、賃料差額に織り込まれているという趣旨の説明をした意見書を作成して提出しました。(これについては、控除法の観点から求められる価格もあるので、注意が必要です。)

「市場価格のある借家権」と「立退料」を「借家権」という類型として一括りにしていますが、その性質は全く別のものですので「市場価格のある借家権」を「狭義の借家権」とし、「立退料」と明確に分けて定義するべきではないかと思います。両者の差異については、この他にもいくつか論点があるのですが、それはまた別の機会に書こうと思います。

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不動産鑑定士 四方田 修

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