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【地代】『山小屋はいらないのか』

三俣山荘の伊藤正一氏の著作ですが、登山ガイドではなく、伊藤氏の経営する山小屋の地代訴訟について世に問う内容です。

三俣山荘は、北アルプスの奥地、黒部川の源流近くにある山小屋です。山小屋のある場所は国有林すので、国(林野庁)に対して地代を払う必要があります。国はその地代増額請求の際、それまでの「定額方式」から「収益方式(毎年の営業報告書の提出を義務付け、総売上(経費を控除しない額)と設備投資費を報告させ、総売上の1%~3%を地代として徴集する。)」に地代算定方法を改める…とした通達に対して、山荘側が争った事件です。

結論から申し上げますと、1981年の通達から20年以上の歳月を得て、国の主張である「収益方式」による地代が認められ、山荘側が敗訴しました。(本著は裁判の途中で刊行されましたが、現在三俣山荘のホームページにその後の顛末が書かれています。)

現在では、都心部の店舗等を中心に収益方式による家賃の決め方は一般的になっていますが、当時としてはかなり画期的な決め方だったのでしょうね。

不動産鑑定評価基準には、「不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。」とあり、その不動産の生み出す収益こそが、不動産の価格や賃料を求める際の基準になることは、合理的と考えられます。

しかし、不動産の収益性を分析するに当たり、単に「収入」だけを重視するのは非常に危険で、「収入」と同時に「費用(必要諸経費)」をしっかり把握する必要があります。

費用の中には、水道光熱費のように月々の支払いとして見える形で把握されるものもあれば、大規模修繕費のように今は発生していないけど、いつか必ず必要になる費用も存在します。また、貨幣額として把握されないものの不動産事業を経営していくに当たり様々なリスクがあり、これらは主に還元利回りに反映されます。今すぐ払わなくてよいものと言うのはついつい見えなくなってしまいますね。

不動産の経済価値を把握する際にはこういった費用もしっかり見極める必要があります。

よく、収益不動産(ビルの一棟売りや投資用マンション)の宣伝で、「利回り●●%」なんていうのがありますが、たいてい『粗利回り』…即ち、収入に対しての利回りで費用は考慮していなかったりしますね。築年数が経過している古い物件ですと利回りがとても高かったりしますが、実際には修繕費がたくさんかかってしまったり、近い将来大規模修繕や建替えのためにたくさんお金がかかったりするものです。

さて、話を戻しますが、山小屋の「費用(必要諸経費)」って、どんなものが考えられるでしょう?

ぱっと思いつくところでは燃料代や食費、人件費等が考えられますが、深い山の中では建物の消耗も激しいので、大規模修繕の積立も普通の建物より多く必要でしょう。また、山小屋は登山者の安全な登山を守る義務を負っています。登山道や水場、トイレ等の整備や遭難者の救助活動等々、小屋の経営に直接関係しない部分も、それらが半ば義務であることが公然であることから山小屋の必要諸経費に加えて考えるべきでしょう。実際、山小屋に宿泊しない登山者も山小屋には有形無形の恩恵を受けているのであり、こうした部分を評価しないと山小屋が成り立たなくなってしまいます。こういった部分も、継続賃料の差額配分法における配分率決定においては「借主の近隣地域の発展に対する寄与度 」として考慮されるべきでしょうね。

私も、昨年8月に「黒部五郎岳」、9月に「雲ノ平」に行った際、三俣山荘で休憩させていただきました(降りしきる雨の中で温かいコーヒーが美味しかった)。

どの登山口からでもまる1日~2日かかる山奥では、水や食事、夏季には医療(岡山大学医学部の医師・看護師が滞在)まで提供してくれる山小屋のありがたさが身に染みました。

もし、山小屋の地代の案件が来たら、しっかり現地実査して説得力のある鑑定書書いてみたいものです。

Akatsukilogo   

不動産鑑定士 四方田 修

http://akatsuki-rea.o.oo7.jp/

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