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家賃の鑑定評価における「共益費」の扱い

以前、働いていた鑑定事務所で、家賃の増減額請求の調停のために、建物及びその敷地の一部について継続賃料を求める鑑定評価書を、提出した時のこと、相手方の提出した鑑定評価書を作成した不動産鑑定士が、当方の提出した鑑定評価書について、「実質賃料の中に共益費が含まれていないので、不当鑑定だ」というのです。

不動産鑑定士が遵守すべき、『不動産鑑定評価基準』においては、実質賃料に「共益費」を含まないとしており、これは、不動産鑑定士試験でも度々論点として取り上げられるような当たり前のことです。

ですので、当方の提出した鑑定評価書に記載されている実質賃料は、当然共益費を含まない金額で作成しましたが、先方の鑑定評価書が、共益費を含む金額で表記されていましたので、参考として「共益費」の金額と共益費込賃料を併記しました。

にもかかわらず、まがりなりにも不動産鑑定士の資格を持った方が、訴訟の場において、毅然とこのような主張してきたのです。私は当時まだ実務修習の身でしたが、これには驚きました。

どうもこの問題に関しては、大きな感違いをされている方が多いようですので、ここで整理してみたいと思います。

「共益費」とは、共同住宅・共同ビル等において、家賃とは別に毎月支払う費用のことで、具体的には、建物の使用者がともに利益を受けている外灯・エレベータ等共用部分の維持・管理のために支出する費用に充てられるものです。

賃貸借契約においては、賃料とは別に、定額の共益費を支払うことが契約書に記載されるのが一般的ですが、「共益費込賃料」ということで、最初から賃料に含まれているケースも少なくありません。

大規模なオフィスビル等では、冷暖房費等、季節的な変動が大きい費用があるため、定額部分の他に、実費による清算が併用されていたり、「空調費」と言った別建ての取り決めをしているケースも良く見受けます。

即ち、「共益費」とは、建物及びその敷地を使用するに当たって、必要不可欠な費用を別建てで徴収しているに過ぎず、一般的には入った金額がそのまま支出されるものですので、これを含むとか含まないとか議論すること自体、意味がないことです。不動産鑑定評価基準が「含まない」ことを前提としているのですから、基準通りにやればいいことだと思います。

但し、ここで、気をつけないといけないことがあります。

不動産鑑定評価基準の第7章第2節「I 賃料を求める場合の一般的留意事項」に、次のような記載があります。

「なお、慣行上、建物及びその式の一部の賃貸借に当たって、水道光熱費、清掃・衛生費、冷暖房費等がいわゆる付加使用料、共益費などの名目で支払われる場合もあるが、これらのうちには実質的に賃料に相当する部分が含まれている場合があることに留意すべきである。」

家賃交渉の際に、賃貸借当事者の力関係で、どうしても家賃が低廉になってしまうことがありますが、このような場合に賃貸人が、共益費を少し高めに設定して安い賃料を補うということが、しばしば行われています。この場合の「少し高めに設定された部分」は、名目は「共益費」でも、実質的には賃料の一部を構成していると考えざるを得ません。

私が以前目にしたケースでは、同じビルの他の賃貸人の共益費が坪当たり3,000円なのに対し、対象不動産の共益費は坪当たり10,000円でした。話を伺いますと、厳しい家賃交渉の中で賃貸人が頭を下げてお願いしてきたので、賃借人が渋々応じたとのこと。同じ7,000円増額するのでも、家賃はダメでも共益費なら許す…というのは少し滑稽ですが、家賃の改定は困難でも、共益費なら後の交渉で何とかなるという意識が当事者間にあるのでしょうね。

不動産鑑定評価基準においては、この7,000円の部分を「これらのうちには実質的に賃料に相当する部分」と呼んで、注意を促しています。

実務的には、賃貸借契約に「共益費」の取り決めがある場合、同じ建物や周辺の類似の建物の賃貸借契約を調査して、標準的な共益費の金額を設定します。この金額と比較して、対象不動産の共益費が乖離している場合には、その旨を明らかにして、実質賃料に反映させます。先のケースでいえば、坪当たり7,000円を実質賃料に加算します。

「標準的な共益費」について、本来は、実際に費用として支出された金額を把握するのが一番よいのですが、共益費に相当する費用は、季節要因等の影響を受けやすい上に、共益費に相当する部分が他の支出と明確に分離されていないことが多く、なかなか実額を把握することは困難です。

また、高層ビル等の場合、1階の店舗と高層階の事務所、居住部分とで、エレベータの使用の有無や、共用部分の使用条件の違い等により、共益費に差を付けているケースもあるので、注意が必要です。

いずれにしても、共益費が合理的な金額であることを、不動産鑑定評価報告書においてちゃんと説明する必要があると思います。

前述の調停において、当方作成の鑑定評価書には、周辺の類似の建物の賃貸借契約の共益費を調査して、対象不動産に係る共益費の金額が標準的なものであり、「賃料に相当する部分を含んでいない」旨、明記してありました。一方、先方の提出した鑑定評価書には、共益費についての記載は一切ありませんでした。

「共益費」を含む、含まないという表面的・形式的な部分にとらわれて、実質的な部分に目が行っていない証拠ですね。

この一件で痛感するのは、不動産というものは各々強い特徴を持っていて、極めて個別性が強く、なかなか画一的な取り決めの枠にはめ込むことが難しいものだということです。
近年、「簡易鑑定」等と言う名前で、片手で数えられるほどの僅かな価格形成要因の増減加補正をパソコンに入力して、ガラガラ、ポンっ!と価格を決定している鑑定評価書を目にしますが、不動産の価格は単純な一次方程式で求められるような、そんな簡単なものではないと思います。

不動産鑑定士の国家試験が、弁護士や公認会計士と同じように「論文式」の試験を課されているのは、定められたルールを順守して公式に当てはめるだけでなく、自ら考えて意見を述べることを求められる資格であることを示唆していると思います。不動産の専門家として独占業務を与えられている者が、自ら考えることを止めて、素人でも出来るような定型的な評価をやっていては、自らの資格の存在意義を否定することにはならないでしょうか?

不動産とは一筋縄にいかないもの。もっと真剣に向き合っていくべし…と、自らにも言い聞かせて、今後、仕事に取り組んでいきたいと思います。

Akatsukilogo   

不動産鑑定士 四方田 修

http://akatsuki-rea.o.oo7.jp/

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