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2010年12月

【DCF法】取引事例比較法とキャップレート

先日、受講した証券化対象不動産の研修報告第二弾です。
(だいぶ時間が経ってしまいました。スミマセン。)

DCF法を適用した鑑定評価で常に問題になるのが、「還元利回りや割引率の算定根拠」です。
取引事例比較法や積算法を中心とした評価から、収益還元法を中心とした評価手法へと移行して来て、不動産鑑定評価書を実際に利用する立場の皆様から、「この利回りはどうやって求めたのか?」という質問をよく受けるようになりました。大規模な物件では利回りが0.1%違えば、簡単に億単位の数字が変わって来ますので、この部分の説明が良くないと、鑑定評価書の利用者の方に迷惑をおかけすることにもなりかねません。
証券化対象不動産の場合、投資家や債権者の意思決定の観点からも、十分な説明がされる必要があるのですが、これまでは結構曖昧な表現で書かれている鑑定評価書も少なくありませんでした。そこで、今回の研修では、具体的な事例を挙げて警鐘を鳴らしていました。

研修資料『証券化対象不動産の鑑定評価に係る実務上の論点と対応(社団法人日本不動産鑑定協会)』によると、還元利回り等の判断過程がわかりにくい例として「対象不動産の実情、投資用不動産マーケットの動向等を総合的に勘案して還元利回りを●%と判断した。」というような具体的数値の列挙のないまま、抽象的な表現で結論を決定しているような表現を挙げていました。実際、私も実務修習の初期段階においては、「そんな感じでいいのではないか」と思っていました。しかし、訴訟案件等においては、利害が対立する相手方に対して重い説明責任が課されることになりますので、判断根拠をどのように表現すべきか、いろいろと研究するようになりました。

研修資料では、判断過程がわかるレベルの記載方法として、「●●調査によれば当該地区のNOI利回りは●~●%となっている。また、●●地区での取引利回り水準はNOI利回りで●~●%となっている。対象不動産の●●●であるという個別的要因等を踏まえ、対象不動産の地域における競争力、位置付けを考慮すると、地域における競争力は高いと考えられるため、●%と判断した。」というような表現を示しています。
無論、このように記載するだけではなく、価格形成要因の分析の項に、このように判断した理由となる要因を、わかりやすく説明しておくことも重要です。

この場合の、地区のNOI利回りの水準については、実際に現地の不動産業者へのヒアリングを行うのですが、最近では財団法人日本不動産研究所が発表している『不動産投資家調査』や、国土交通省の『主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~(こちらは具体的な数値は発表していないものの、3か月毎の増減の動向やその要因がわかります)』等、簡単に入手できる指標が増えて来ました。そして、最近、最も有用な資料が、J-REIT(上場された不動産投資信託)の各種開示資料です。

各REITのホームページ等で、不動産取引時の情報開示、決算報告における個別不動産の鑑定評価書の概要の開示と書く決算時における収支及び期末算定価額としての鑑定評価額の開示等が、簡単に閲覧することが出来ますので、対象不動産の同一需給圏内に存するREIT所有物件に係る事例を、容易に入手することが可能になりました。

不動産取引時の情報開示においては、不動産の概要と収支、そして取得価額が開示されますので、実際の取引利回りが簡単に計算できます。実証的なデータですので、特にREIT物件が多く集まる都心エリアにおいては、地域の利回り水準等が明確になり、強力な検証手段になることは間違いありません。また、収支の概要には、支出・費用の明細が開示されていることもあり、地域における収益不動産の経費率等を知るにも絶好の資料となるでしょう。

また、取得価額を床面積で除することによって、床面積当たりの取引価格も判明しますので、「貸家及びその敷地」の土地・建物一体としての取引事例比較法の適用の可能性も広がります。実際には取引事例比較法が適用可能な程、対象不動産と類似の複合不動産等は、そうそうはないのですが、参考として載せることは出来ると思います。

ここで、注意したいのは、決算時に開示される「個別不動産の鑑定評価額」です。これは、あくまでも不動産鑑定士による「査定」に過ぎないので、実際の取引事例と同様に扱うというわけにはいかないでしょう。それでも半年に一回評価替えが行われる(今後は四半期毎になっていくはずです)ので、時点の揃った資料を集めることが可能となります。参考資料としてそれなりの説得力を持っていると言えます。

還元利回りや割引率の査定方法はいろいろとありますが、最も説得力があるのは、やはり類似の不動産の取引事例との比較から求める方法です。その説明資料として、これらの資料は非常に有用ですので、積極的の取り入れ、鑑定評価書の利用者の方々が納得できるような良い成果物を作成できるように、努力して行きたいと思います。

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期待利回り

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不動産鑑定士 四方田 修

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【DCF法】想定保有期間について

証券化対象不動産の鑑定評価に関する研修に参加して来ました。

実のところ、私は証券化対象不動産の評価はやったことがありません。

一度、以前働いていた事務所で、証券化対象不動産の評価の依頼が来たのですが、事前にDCF法のシートを提出し、最も高い収益価格を出した2社に対してのみ正式な依頼を行う・・・という、今なら間違いなく金融庁に厳しく叱責されるような仕事の依頼方法で、これに対してかなり頑張った数字を提出したにもかかわらず、受注出来ませんでした。

その後、とある報道で意外と大きな事務所が受注していたことが判明して、びっくりした覚えがあります。結局、そのプロジェクトは不動産市況の悪化でクロージング出来なかったようですが・・・。(苦笑)

証券化対象不動産の評価は、短期間に集中的に仕事が発注される上に、不特定多数の利害関係者(投資家、債権者等)への説明責任がありますので、基本的には大手の鑑定事務所がやるものと理解しています。

ですので、我が「あかつき鑑定」では当面の間、証券化対象不動産の評価をする予定はないのですが、証券化対象不動産として評価される機会の多い、オフィスビルや商業施設、物流施設等が対象不動産の場合、やはり証券化対象不動産を評価するのと同じ基準(「不動産鑑定評価基準各論第3章」や各種実務指針等)で評価する必要がありますので、実務で問題になっている論点を整理し、日々変化していく解釈についてしっかりとキャッチ・アップしておく必要があります。

そこで、今回から数回に分けて、証券化対象不動産の評価に当たりホットな話題を取り上げていきます。

まずは、DCF法の想定保有期間についてです。

DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれ合計する方法(Discounted Cash Flow法)で、単年度の収益を永久還元する直接還元法と比較して、将来の純収益の変動を各期ごとに明示するため、より説得力のある手法と考えられています。

想定保有期間(売却を想定しない場合には「分析期間」)とは、DCF法で収益を予測する連続する期間を言います。

不動産鑑定評価基準の『運用上の留意事項』において、「保有期間は、毎期の純収益及び復帰価格について精度の高い予測が可能な期間として決定する必要があり、不動産投資における典型的な投資家が保有する期間を標準とし、典型的な投資家が一般に想定しないような長期にわたる期間を設定してはならない。」と注意を促しています。

不動産証券化市場の主要なプレイヤーである不動産ファンド等は、投資用不動産を一定期間保有後に売却することを想定していますが、その期間は5年や7年が一般的です。

しかし、昨年実施した本研修のアンケートでは、不動産鑑定士が採用している想定保有期間は、5年が16.1%、7年が4.7%、10年が79.2%となっていて、実際の保有期間より長い10年を採用する鑑定士が大半を占めています。

一方で、証券化対象不動産の評価に不可欠なER(エンジニアリング・レポート)において、大規模修繕計画を策定する場合には、12年分作成するのが一般的だそうです。

これは、新築時から8年目に電気設備等を中心とした数億単位の大規模修繕が発生することが多いため、その1.5倍の期間見積もることで、概ね平均的な修繕費用を見積もることが出来るという考えからだそうです。

・・・とすると、不動産ファンド等が想定する保有期間の「7年」には、最初の大きな大規模修繕の前に売り抜けようという意図が透けて見えて来ます。経済合理性を考えれば当然の判断ですが、これに合わせて不動産鑑定士が保有期間7年でDCFを組むと、8年目の大型の費用計上(大規模修繕費)が織り込まれず、不動産鑑定評価額が大きく上に引っ張られることになりかねません。

もちろん、想定保有期間を7年としても、しっかりと分析した上でDCFを組めば、復帰価格(保有期間経過後の売却価格等)が8年目の大規模修繕費の分だけ安くなるはずなので、問題はないのですが、恣意性を盛り込む(実際より高く評価する)に具合がいいのも事実です。ここが大きな落とし穴になりかねません。

そういう意味では、10年というのは、8年目の大規模修繕がしっかり含まれるのでいい想定期間なのかもしれません。

しかし、私が今まで見た鑑定評価書の中には、このように精緻に見積もられた大規模修繕費が計上されていないものが、少なくありませんでした。

収入は、「毎期●%ずつ増加すると予測」し、支出は「一定」という感じで、毎期の支出がまったく同じまたは僅かに変動するのみで、これだったら直接還元法で還元利回りに費用収益の変動を織り込んでいるのと大して変わらないような気がします。

とはいうものの、エンジニアリング・レポートで大規模修繕計画がちゃんと作成されている場合には、その予定金額を検証した上で計上すればよいのですが、そういった資料がない場合は、私のような建物設備についてあまり詳しくない鑑定士にとって、大規模修繕費の計上は、なかなか頭の痛い問題です。

『不動産有効活用のための建築プロジェクトの企画設計・事業収支計画と投資採算評価の実務』

上野俊秀著(プログレス)

Progres HP: http://www.progres-net.co.jp/

こちらの本は2011年11月に改訂版が出ています。

この本は、不動産鑑定評価のための本ではないのですが、建築士の立場から収益不動産の投資計画の立案について、詳しく説明してあります。

実は、以前実務修習を受けていた時、賃貸事業における必要諸経費の算定について「維持管理費を総収益の●%と求めていますが、実態に即しているのか?」という指摘をされたことがあり、それ以来、建物維持管理にかかる支出の合理的な見積もりを行うための資料をいろいろと探した結果、この本に到達しました。

建物の修繕費だけでなく、建築費や解体費についても詳しく解説がしてあり、また、DCF法において重要な支出項目である水道光熱費(電気代・水道代)等についても、専有床面積当たりの使用量の統計的資料や、基本料金や従量制の料金を加味した具体的な算定方法が記載されています。

もちろん、不動産にかかる費用は、その建物ごとの個別性が強いため、「これで完ぺき」とは言えませんが、それでもかなり説得力のある説明が出来ると思います。

DCF法を用いるということは、各年度収入と支出を精緻に見積もるところに価値があるわけですから、ここにこだわってやらないと、わざわざ面倒なDCFを組む意味がありません。

実際の不動産ファンドが保有期間7年程度であるにもかかわらず、わざわざ10年分のDCFを組むのですから、大規模修繕などの大口の支出については、ちゃんと説得力のある数字を用いる必要がある・・・ということを、今回の研修で再認識したのでした。

Akatsukilogo   

不動産鑑定士 四方田 修

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