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「あるべき価格」と「ある価格」

仕事柄、弁護士や会計士、税理士といった専門家の先生方とお話しする機会があるのですが、よく言われるのが「ほんとにその価格で売れるのですか?」です。

私は、長く銀行に勤めていた関係で、不動産の価格を把握する際に、担保評価や担保処分の目線で見ていました。すなわち、実際に売れる価格です。最終的に競売での処分が予想される場合には、早期処分価格、いわゆる民事再生法に関わる評価における特定価格のような価格をイメージすることもありました。

これに対して、プロの鑑定士の先生の書いた不動産鑑定評価書の鑑定評価額は、概して私のイメージする価格より高く評価されていました。

この業界に入って、それなりに経験を積んで来て、銀行での評価と不動産鑑定評価の前提条件の違い等について理解するようになった後も、まだちょっと違和感を感じることがあります。そんなもやもやを抱いている中、この「あるべき価格」と「ある価格」の議論を見つけました。

それは、昨年12月に受講した「証券化対象不動産の鑑定評価に関する研修」の中でのこと、講義では特に説明があったわけではないのですが、配布された資料『証券化対象不動産の鑑定評価に係る実務上の論点と対応(研究報告)』の第1章に、価格概念の整理としてこの「あるべき価格」と「あるべき価格」についてページ数を割いて説明されていました(以下、一部引用いたします)。

不動産鑑定評価基準において、鑑定評価において求める最も一般的な価格概念(正常価格)は、「市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。」と定義されています。この定義は平成14年の不動産鑑定評価基準の改定で新たに下線部分が加えられて成立したものです。この「現実の社会経済情勢の下で」とは、現実のマクロ経済・地域経済の動向、不動産の需給動向、不動産に関する法制度や税制、不動産に関する取引慣行、市場参加者の価値観等を与件として扱い、社会経済情勢の一部を捨象したり、理想的な条件に置換したりしないことが要請されているということで、不動産鑑定評価で求めるべき価格は、「あるべき価格」ではなく、「ある価格」であることを示唆しています。

実際の市場を重視する一方で、正常価格の定義は「合理的と考えられる条件を満たす市場」で形成される価格であることも要求しています。投機性や取引当事者の個別性から生じる事情等を排除する必要があります。ですから、実際に成立した価格が必ずしも正常価格というわけではありません。しかし、継続性と一般性を満たした取引が相当数成立した局面では、これらの取引を重視した水準を指向しなければならないということです。

ここまで、ややこしい説明をして来ましたが、わかりやすく具体例を示すと、リーマンショックの頃、急激な市場の変化により、不動産価格が大幅に下落しました。これは、個々の取引の「投機性」や「個別性」の影響によるものではなく、市場が全般的に下落していたものので、「ある価格」といえます。

一方で、収益還元法の適用において、不動産賃貸事業のキャッシュフローに変動がないのだから、本来「あるべき価格」は変わらない…として、不動産価格の下落を織り込まない評価も見られたそうです。しかし、このようにして求められた価格は「現実の社会経済情勢の下」で成立するであろう価格ではないのですから、正常価格とは言えません。

ここまでの議論は、証券化対象不動産に当てはめると良く理解できます。鑑定評価額が急激に下落すると不動産投資信託(REIT)等の価格も連動して価格を下げ、証券化ビジネスに関わるプレイヤーに大きなダメージを与えることになりますので、有価証券報告書に記載される個別の物件の資産価格等について「あるべき価格」で開示したいはずです。しかし、金融証券取引法の投資家保護の観点からは、開示される価格は「ある価格」であるべきです。この議論は、「あるべき価格」を用いることにより、本来求めるべき正常価格(=「ある価格」)より高い水準の価格が表示され、投資家が誤った判断をすることへの警鐘と見ることが出来るでしょう。

この点、ベテランの鑑定士の先生に訊いてみますと、以前は「あるべき価格」を求めるように口酸っぱく指導されていたそうです。要するに、「現実の社会経済情勢の下で」の文言がない、平成14年の改正以前の不動産鑑定評価基準です。

私も、不動産鑑定士の二次試験に合格したのが平成12年ですので、旧基準で勉強したのですが、その後暫くの間銀行で働いていましたので、この平成14年の改正について知ったのは、この業界に転職して来てからです。実務修習のテキストに記載されている鑑定評価書の記載例等を見て、市場分析の記載が多いのに驚いた記憶があります。

文言としては、僅かな違いでも、求められる価格に大きな違いを生じるおそれがあります。私の鑑定評価額に対する違和感は、平成14年の改正前の「あるべき価格」の鑑定評価書が、まだまだ生き続けていることの「証し」なのかもしれません。

Akatsukilogo   

不動産鑑定士 四方田 修

http://akatsuki-rea.o.oo7.jp/

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