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借家権や継続賃料を求める際の「上限」と「下限」

不動産鑑定評価の対象となる類型のうち、借家権(※立退料)と継続賃料の二つについては、他の類型と異なる特徴が認められます。それは、いずれも市場での取引を前提としていないという点です。

※注:借家権の内、「賃貸人から建物の明渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することになる経済的利益等、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体的に現れるもの」(不動産鑑定評価基準各論第1章第3節Ⅲ)をここでは便宜上「借家権(立退料)」と呼びます。

不動産鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式、及び収益方式の三方式がありますが、これらによって求められた価格は理論的に一致するという価格の三面性(三面等価)を利用して、鑑定評価額を求めていこうというのが基本的な考え方です。

したがって、これら三方式それぞれの考え方を中心とした鑑定評価の三手法が規定されています。(例:原価法、取引事例比較法、収益還元法の三手法)

しかし、借家権(立退料)と継続賃料については、市場での取引を前提としていないため、鑑定評価の手法相互の間に三面等価の関係を認めることはできません。

ですので、求められた試算価格(試算賃料)が理論的に一致することは予定されていません。(但し、ひとつの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられていることに留意する必要があります。)

では、どうやって試算価格を調整し、鑑定評価額を決定するのか?

価格の決定に当たっては、各種の事情を総合的に勘案することになりますが、それ以前に明らかな事実として、そこには「上限」と「下限」が存在するはずです。

借家権(立退料)の場合であれば、試算価格の内、「自用の建物及びその敷地の価格から貸家及びその敷地の価格を控除し、所要の調整を行って得た価格」は、賃貸人(家主)が立退きを行うことによって得られる利益(=立退料の支払い原資)と考えることが出来ますので、これが「上限」になります(これ以上払ったら立退きを要求する意味がなくなってしまう)。

そして、「当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払賃料と現在の実際支払賃料との差額に相当する額に賃料の前払的性格を有する一時金の額を加えた額」は、これに鑑定評価の対象外である休業補償や引っ越し代を加えれば、賃借人(店子)にとって、立退きに応じても経済的に損をしないで済む最低額といえますので、「下限」と言うことが出来ると思います。

この「上限」と「下限」の間で、契約締結時または賃料の改定時から価格時点までの間における「事情」を総合的に勘案して決めることになります。(不動産鑑定評価基準には、借家権で7つ、継続賃料で8つの総合的勘案事項が挙げられています。)

こういうフレームワークを作っておけば、鑑定書を見た裁判官と当事者(代理人弁護士)も理解しやすいですし、仮に鑑定評価額について双方が不満を持ったとしても、範囲は決まっているのですから話し合いもしやすいと思います。

継続賃料の場合はちょっと違って、「上限」と「下限」は試算価格相互ではなく、「新規賃料(対象不動産の経済価値の即応した適正な賃料)」と「現行賃料(実際賃料)」の間で決まります。

これは、考えてみれば当たり前のことなのですが、意外とこの原則を無視した鑑定評価書を見かけます。

今の継続賃料の求め方は、不動産価格や賃料が右肩上がりだった時代に作られたもので、バブル崩壊後のこの20年の「上がったり下がったり」という状態を想定していません。

このような経済状態の下で、諸事情を考慮せずに公式に当てはめるかのように鑑定評価方式を適用すると、「新規賃料」と「現行賃料」の枠をはみ出した賃料が求められてしまうことがあるので注意が必要です。

この「上限」と「下限」の考え方に最も合致した手法は、差額配分法です。差額配分法は新規賃料と現行賃料との差額(賃料差額)を縮小することが当事者間の合理的意思を反映した手法で、継続賃料を求める四手法の中で、最も合理的な考え方だと思います。バブル期以降、差額配分法を否定する判決も見られましたが、それは折半法や3分の1法といった配分方法についての批判であって、賃料差額の縮小という考え方を批判したものではありません。

この他、事業用不動産等で収益賃料が求められる場合は、これが負担可能賃料(=上限)と見ることもできると思います。収益賃料は新規賃料を求める手法ですが、継続賃料を求める際にも有力な指標となりうるでしょう。

このように、借家権(立退料)と継続賃料の鑑定評価においては、鑑定評価の手法の適用の段階で、鑑定評価額の収まるべき一定の範囲があると言えます。

ここで述べた上限と下限が逆転してしまったり(この場合は契約を解除するのが双方にとって幸せかも?)、これらを考慮すべきでない特別な事情が存在する場合は、この限りではありませんが、通常の場合、鑑定評価額とは別に上限と下限を明らかにしておくことで、鑑定評価額の決定に当たりひとつの検証材料となるとともに、訴訟に場における当事者間の問題解決に大いに役立つことでしょう。

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不動産鑑定士 四方田 修

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