収益賃料と最有効使用の原則(店舗賃料と売上高)
アベノミクスの効果でしょうか?リーマンショック以降冷え込んでいた繁華街にも、人の姿が少しずつ戻って来たような気がします。景況感の好転により、商業地の賃料も下降から上昇へと転じつつあるようです。
店舗賃料は、店舗の売上高に比例すると言われています。物販・飲食店舗の事業主は、店舗の収益性を重視して出店の可否について意思決定しますので、損益分岐点を上回るのであればそこに出店したいと考えます。そして、その場所で最も高い賃料を提示できる事業者が、その場所で商売するチャンスを得るのです。(最有効使用の原則)
一般的な飲食業等の場合、売上高に対する原価の割合は3割と言われています。そこから人件費や水光熱費等の販売管理費を控除すると、負担可能賃料(だいたい幾らくらいまで家賃を負担出来るか)が計算できます。こうした計算を基に、採算を図ることが出来ると判断すれば出店のゴー・サインが出ますので、店舗の賃料と売上高の間には深い相関関係が認められます。最近では、売上高に連動させた変動賃料も多く見られますね。
ここで気を付けたいのは、家賃を決定するのは「最有効使用の売上高」だと言うことです。
よく、賃料減額訴訟において、賃借人が「最近、売上高が下がってきているので賃料を下げて欲しい」と訴えて来るケースを目にしますが、売上高の低下が、一般的な景気の後退や地域の衰退によるものなのか、それとも当該事業固有の問題なのか、について検討する必要があります。
前者の場合は、どんな事業でも収益性をあげることが難しいので、賃料の減額を免れることは出来ませんが、後者の場合は、テナントを替えることで、賃貸人はより高い家賃を獲得する機会があるはずです。
特に繁華性の高い目抜き通りにおいては、誰もが出店のチャンスを狙っています。たとえ現在の賃借人が退去しても容易に新しい賃借人を見つけることが出来るでしょう。このような状況で、賃料減額を要求されるのは、賃貸人にとって酷です。
そこで、鑑定評価に当たっては、まず、対象不動産において、どのような事業者が最も収益を獲得し、高い家賃を払うことが出来るかを十分に検討することが必要です。
この最有効使用は時代とともに変わって行きます。かつては高い収益性を背景に、駅前一等地に大きな店舗を構えていた百貨店が、家電量販店にその場を譲っているのは、賃料負担能力が逆転したからです。
【参考】「百貨店から家電量販店(新宿三越アルコット閉店)」
http://akatsuki-rea.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-9118.html
全国展開しているチェーン店等は、大量仕入れによる原価削減、店舗の情報化や物流の最適化合理化により、高い収益性を示しており、また、店舗開発要員が全国の繁華街で出店可能性を探っていますので、商業集積地において最有効使用であることが多いです。収益賃料を査定するにおいては、これらのチェーンを運営している企業の財務データを活用することが有効です。
こうして求められた収益賃料に対して、現行賃料が下回っている場合、たとえ現賃借人の売上減少により家賃負担が厳しくなっていたとしても、直ちに賃料減額を受け入れる必要はないと言えるでしょう。もちろん、客観的な数字を示すことが重要です。ですので、店舗賃料の鑑定評価書を作成する際は、手間暇を惜しまずやっていくことが大切ですね。
不動産鑑定士 四方田 修
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