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2014年5月

賃貸事業分析法

平成26年5月1日付の改正『不動産鑑定評価基準』は、不動産証券化市場における国際会計基準への適合等の要請に配慮した部分については、積極的に改訂されているのですが、賃料に関する部分については、事前の調査段階で問題視されていた部分も含めて、あまり具体的な改訂が盛り込まれませんでした。

そんな中、宅地の正常賃料を求める評価手法に賃貸事業分析法が加えられたのは、大きな改正と言えます。

基準の各論第2章第1節 I. 「2.宅地の正常賃料を求める場合」に追記される形で、

また、建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益を適切に求めることができるときには、賃貸事業分析法(建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法)で得た宅地の試算賃料も比較考量して決定するものとする。

と定義されました。

「比較考量」ということで、あくまでも他の手法による賃料(積算賃料、比準賃料、配分法に準ずる方法に基づく賃料)の補助的な位置づけになっていますが、借地上に賃貸建物が建っている場合の賃料を求める手法としては、土地の賃借人の支払える上限額として合理的であるといえます。

最近REIT(不動産投資信託)が、都心のビルの底地のみを取得するケースが多く見られますが、この底地の地代を設定する際、周辺に参考となる賃貸事例が少ない(一般戸建住宅や小規模小売り店舗の地代の事例はあまり参考にならないことが多い)ことから、この手法の果たす役割は大きいと言えるでしょう。

また、新たに大規模商業施設やホテル等を建設する際の新規地代を求める場合にも、大いに参考とすべきだと思います。建物が収益不動産の場合には、収益分析法という手法が別にあるのですが、最近では賃貸を想定して負担可能賃料から純収益を想定する考え方が主流になりつつあります。(実際、収益還元法の総収益の項にも、このような考え方を基準の文言の追加がなされています。)

私も、まだ、鑑定士になる前の見習い時代に、この手法を適用したホテルの地代を求める鑑定評価書の作成に携わったことがあります。

ホテルを建設することを計画して、土地の賃貸借契約を締結したのですが、土地の賃借人が、建物を建設する前に民事再生を申請したケースで、賃借人の代理人弁護士が、当初合意した地代を減額するよう請求してきたのです。

賃貸人(地主)からの依頼で、継続賃料の鑑定評価書を作成することになったのですが、賃貸事業分析法を採用することで、不動産に帰属する純収益(≒賃料負担能力)を具体的に試算することで、賃料減額の必要のないことを示すことにしました。

当時は、「賃貸事業分析法」等という正式名称はありませんでしたので、「土地残余法に基づく方法」などと適当な名前を付けていました。

ホテルの地代を求める場合、ユニフォーム・システム(Uniform System of Accounts for The Lodging Industry:部門別管理会計)により、各部門の収益が明確化されており、不動産(建物及びその敷地)に帰属する純収益を客観的に求める手法も確立されていましたので、とても説得力のある評価が出来たと思います。

この手法が基準に追加されたことで、今後は大手を振って、適用できる(しなくてはならない?)ことになりました。まだまだ具体的な適用方法については、書籍などに公表されているものがありませんので、土地に帰属する純収益の算定方法など、いろいろと研究していく必要がありそうです。


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特定価格と正常価格(平成26年5月1日不動産鑑定評価基準改正)

特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう・・・と定義されていました。

例えば、資産流動化計画の運用方法を所与する価格を求める場合(いわゆる証券化対象不動産の価格)には、必ずしも最有効使用を前提としないために、仮に実際の使用方法が最有効使用の状態にあっても「特定価格」とされていました。

しかし、求めた価格が結果として正常価格と相違ない場合においても特定価格と表示されることについて、国外の投資家等からわかりにくいとして懸念の声が上がっていました。

そこで、平成26年5月1日付改正『不動産鑑定評価基準』においては、次の様に文言が改められました。

特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することになる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう

これにより、結果的に「正常価格=特定価格」となる場合には、鑑定評価により求める価格は「正常価格(=IVSにおけるMarket Value)」となります。

証券化対象不動産の場合、最有効使用を前提とする価格を求めることが多いと思いますので、殆どのケースで「正常価格」を求めることになると思います。

証券化対象不動産以外にも、不動産鑑定評価基準において例示されている特定価格を求めるものとしては、

(2)民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合(早期売却価格)
※ 会社更生法の財産評定や更生担保権における担保目的の評価で求める価格は正常価格である点に注意

(3)会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合(事業継続価値)

があります。

基準の文言を素直に読むと、こちらの場合も、「正常価格=特定価格」となる場合には、鑑定評価により求める価格は「正常価格」となるようです。

民事再生法における財産評定で、事業継続に必要な不動産を評価する場合、早期売却価格及び事業継続価格、さらに正常価格(特定価格を求めた場合、併記する必要がある)の3つの価格を鑑定評価書の中で求めることになりますが、対象不動産が最有効使用の状態にある場合、これら3つがすべて同じ価格になるということが考えられます。
このような場合、求める価格はすべて「正常価格」ということになり、かえってわかりにくいですね。

対象不動産が最有効使用の状態に有り、正常価格と同一の市場概念の下において価格が形成されている旨を記載した上で、価格の表示方法について、わかりやすく工夫する必要があるでしょう。

【例】
鑑定評価額の決定
対象不動産は、最有効使用の状態にあり、価格1(早期売却価格)及び価格2(事業継続価値)ともに、正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と合致したことから、鑑定評価額を次の通り決定した。

鑑定評価額
価格1:●●,●●●,●●●円(早期売却価格) 
価格2:●●,●●●,●●●円(事業継続価値)
(上記二価格はいずれも正常価格)

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建物設備部分の評価(鑑定評価モニタリングにかかる立入検査の検査結果より)

国土交通省は、鑑定評価モニタリングの一環として、平成20年度から不動産鑑定業者への立入検査を実施し、その検査結果の中で、改善を要すると認められる内容を、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会に通知し、周知徹底を図っています。

不動産鑑定評価などの適正な実施について

その中で、少し気になる項目がありました。

○鑑定評価方式の適用について

〔原価法関係〕
・建物に係る経済的残存耐用年数の査定において、現状で十分効用を発揮している状態が認められるにもかかわらず、設備部分の同耐用年数を機械的にゼロないし短期間としているものが見受けられた。

原価法とは、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法です。

ここで、問題になっているのは、減価修正を耐用年数に基づく方法により行う場合の経済的残存年数の捉え方についてです。

不動産鑑定評価基準には、「対象不動産が二以上の分別可能な組成部分により構成されていて、それぞれの耐用年数又は経済的残存耐用年数が異なる場合に、これらをいかに判断して用いるか、また、耐用年数満了時における残材価額をいかにみるかについても、対象不動産の実情に即して決定すべきである。」と定められていて、多くの場合、建物を「躯体(主体)」と「設備」に分けて、それぞれ減価修正を行うのが一般的となっています。(最近は、さらに「仕上げ部分」を含めた3分類とするケースも増えています。)

※追記
平成26年5月1日付改正『不動産鑑定評価基準』では、「躯体・設備・内装等」という表現を使っています。

具体的に例を挙げてみましょう。

(価格時点:平成26年5月1日)
平成6年5月1日新築

再調達原価 200,000,000円

躯体部分 割合:70% 経済的耐用年数:40年
設備部分 割合:30% 経済的耐用年数:15年 

減価修正は定額法による

この場合、躯体部分は、

再調達原価:(再調達原価)200,000,000円 ☓ (躯体割合)70%= 140,000,000円
減価修正額:140,000,000円☓ (経過年数)20年/(耐用年数)40年 = 70,000,000円
積算価格:140,000,000円 - 70,000,000円 = 70,000,000円

となります。

一方、設備部分については、耐用年数が15年に対し、既に20年が経過していますので、上記と同じ計算方法の場合、ゼロ評価となります。

再調達原価:(再調達原価)200,000,000円 ☓ (設備割合)30% = 60,000,000円
減価修正額:60,000,000円☓ (経過年数)15年※/(耐用年数)15年 = 60,000,000円
積算価格:60,000,000円 - 60,000,000円 = 0円

※経過年数20年>耐用年数15年のため、15年を採用

実際、このような評価をしている不動産鑑定士は少なくないと思います。

私は、不動産鑑定士になる前に銀行で働いていましたが、銀行の担保評価では、債権の安全性を図るために保守的に評価を行う傾向に有り、建物を(躯体部分も含めて)ゼロ評価とすることにまったく抵抗はありませんでした。

しかし、建物が実際に使用されている場合、設備部分が効用を発揮しているのですから、価値がゼロというのはおかしい、というのが国土交通省の言い分です。

ここで、設備部分とは、電気設備や給排水衛生設備等で、大きなビルでは昇降機器(エレベーター)や空調設備等が大きな割合を示すと思います。

これらの設備は、新築後、定期的に修繕や交換がされて更新されていくのが一般的です。大規模修繕が行われれば、その時点から、さらに経済的耐用年数が延びると考えるべきです。

そういう意味では、建物構成部分を出来るだけ細かく分類し、それぞれの部分ごとに減価修正を行い、設備が更新された場合はそれをすべて反映させていけばいいのですが、それは作業が大変(鑑定料も高くなってしまう)ですし、何より、不動産鑑定士がそれを望んでも、必要な資料が揃わないことが多いです。
また、大都市の商業地等では、不動産価格に占める建物の割合は小さく(1割以下ということも少なくない)、価格が下がる分にはあまり文句を言う人もいなかったので、あえて、建物の設備部分を精緻に評価する必要もなかったのです。

ここに来て、設備ゼロ評価に「改善」を求める声が出てきたのは、国土交通省による不動産流通市場活性化の動きが大きく関係しているものと思われます。

近年の空き家の増加と来たるべき人口減少社会に備え、政府は中古住宅の流通市場の活性化に力を入れています。

しかし、日本では、戸建住宅は20年(人によっては10年?)経ったら価値ゼロと言う風潮が有り、国土交通省は、建物の経済価値が認められないことが、流通市場拡大の大きな障害になっていると考えられているようです。

そこで、評価のあり方そのものにメスを入れようということになったのではないでしょうか。

国土交通省は、最近このような指針を発表しています。

中古住宅に係る建物評価の改善に係る指針

これは、中古住宅についての評価の指針ですが、この中で、減価修正の精緻化について、具体的に言及しています。

Photo

今後、建物の評価については、精緻に分析を行うことにより、経過年数だけに頼らず、実際の建物の管理やメンテナンスの状態を考慮した評価が、より強く求められていくと思われます。

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